バレット食道とは?
バレット食道とは、食道のいちばん下の部分が、胃の性質に近い粘膜に変わっている状態のことです。本来、食道と胃では性質のちがう粘膜でおおわれていますが、胃酸が逆流する状態が続くと、食道の粘膜が傷み、その部分が少しずつ胃に似た粘膜に置きかわることがあります。これが「バレット食道」です。
バレット食道そのものが、すぐに命にかかわる状態というわけではありません。ただし、ごく一部の方では、その部分から食道のがんができやすくなることがあると知られています。そのため、「見つかったら終わり」ではなく、胃カメラで様子をみていくことが大切です。
バレット食道の原因
バレット食道は、「ある日突然できる病気」というよりも、胃酸が食道に戻る状態が長く続いた結果として少しずつ起こる変化と考えられています。
その背景には、逆流性食道炎や生活習慣、体のつくり(体質)や加齢、さらに食道裂孔ヘルニアなど、いくつかの要因が重なっています。
逆流性食道炎が続くことで起こる変化
いちばん大きな原因は、逆流性食道炎が長く続くことです。胃酸や胃の内容物が何度も食道に逆流すると、食道の粘膜がたびたび傷つきます。体はその刺激から自分を守ろうとして、食道の粘膜を、胃酸に強い「胃の粘膜に近い性質」へと少しずつ作り替えていきます。
この「食道なのに胃のような粘膜になっている部分」がバレット粘膜で、その部分が見られる状態がバレット食道です。逆流性食道炎そのものは珍しい病気ではありませんが、その中の一部の方がバレット食道へ進んでいくと考えられています。
生活習慣・体質・加齢などの影響
逆流性食道炎やバレット食道は、生活習慣や体質とも関係が深いといわれています。
「脂っこい料理や量の多い食事が続いている」「早食い、夜遅い時間の食事が多い」「アルコールをよく飲む、喫煙習慣がある」「肥満気味でお腹まわりに脂肪がつきやすい」
など、お腹の圧が高くなったり、胃の動きが乱れたりすると、胃酸が逆流しやすくなります。
また、加齢によって胃と食道の境目のしまりがゆるくなってくることも、逆流しやすくなる一因です。
こうした要素がいくつか重なるほど、逆流性食道炎がおこりやすくなり、結果としてバレット食道が見つかる可能性も高くなると考えられます。
食道裂孔ヘルニアなど他の病気との関わり
食道裂孔ヘルニアも、バレット食道と関わりの深い病気です。
横隔膜(胸とお腹を分けている筋肉)のすきまから、胃の一部が胸のほうへ飛び出した状態を「食道裂孔ヘルニア」と呼びます。この状態になると、胃と食道の境目がゆるみやすくなり、胃酸が食道へ逆流しやすくなってしまいます。食道裂孔ヘルニアそのものは症状が出ないことも多いのですが、逆流性食道炎やバレット食道を引き起こしやすい土台になります。
そのほかにも、体の病気やお薬の影響で胃酸が増えたり、胃の動きが変わったりすることで、逆流が起こりやすくなる場合もあります。
バレット食道の症状
バレット食道そのものは、はっきりした症状が出ないことも多くあります。
多くの場合は、もともとの逆流性食道炎の症状が手がかりになるイメージです。
胸やけ・呑酸・のどの違和感などの自覚症状
バレット食道がある方の中には、次のような症状を感じていることがあります。
・みぞおちから胸のあたりが焼けるように熱い(胸やけ)
・すっぱい液体が口まで上がってくる(呑酸〈どんさん〉)
・のどがつかえる感じ、ヒリヒリした違和感が続く
・横になると胸のあたりがムカムカして眠りづらい
こうした症状は、主に胃酸の逆流や逆流性食道炎によるものですが、結果としてバレット食道が見つかるきっかけになることも少なくありません。
「市販の胃薬でごまかしながらなんとかしている」「同じ症状が何度もぶり返している」という場合は、一度きちんと状態を確認しておくと安心です。
無症状のまま見つかるケースもあります
一方で、まったく症状がないまま、健診や人間ドックの胃カメラで偶然見つかる方も多くいらっしゃいます。症状がないからといって「何もない」と言い切れるわけではありませんが、
同時に「バレット食道=すぐにがんになる」という意味でもありません。
大切なのは、現在の状態やリスクを知ったうえで、適切な間隔で胃カメラによる経過観察を続けていくことです。
受診・検査を考えてほしいサイン
次のようなサインがあるときは、一度ご相談いただきたいタイミングです。
・胸やけや呑酸が、週に何度も続く
・胃薬を飲んでも、以前より症状の出方が変わってきた
・飲み込むときにしみる・痛い、食事が進みにくい
・のどの違和感や咳が長く続いている
・健診や人間ドックで「バレット食道」「食道炎」などを指摘された
こうしたサインが続くときには、一度胃カメラ検査で中の状態をしっかり確認しておくことが、将来の安心につながります。
当院で行うバレット食道の検査
バレット食道かどうか、またどの程度の広がりがあるかを調べるためには、胃カメラ検査(胃内視鏡検査)がとても大切です。
食道の粘膜の色や質感、胃との境目の位置、逆流性食道炎の程度、食道裂孔ヘルニアの有無などを、直接カメラで確認していきます。必要に応じて、バレット粘膜の一部を少量だけ採取して(生検)、顕微鏡で細かく調べることもあります。
胃カメラ検査
当院では、経口内視鏡(口から挿入する胃カメラ)と経鼻内視鏡(鼻から挿入する胃カメラ)のどちらかをお選びいただけます。
■経口内視鏡
一般的な胃カメラで、口から細いカメラを入れて、食道・胃・十二指腸を観察します。
画像がはっきりしており、詳しく観察しやすいというメリットがあります。
■経鼻内視鏡
鼻からさらに細いカメラを通す方法です。舌のつけ根をあまり刺激しないため、
「オエッ」となる反射が少なく、会話もある程度しながら検査を進められます。
「胃カメラが苦手」「以前つらい思いをした」という方にも受けていただきやすい検査方法です。
どちらの方法でも、バレット食道の有無や範囲、逆流性食道炎の状態、食道裂孔ヘルニアの有無などを丁寧に確認していきます。
検査の前には、不安なことやご希望(経口・経鼻の希望、つらくないようにしてほしい点など)をしっかりお伺いし、できるだけ負担を少なく検査を受けていただけるよう工夫しています。「健診でバレット食道と言われた」「胸やけが続いて心配」という方は、一度ご相談ください。
バレット食道の治療方法について
バレット食道の治療は、「粘膜の変化そのものを元に戻す」ことよりも、「胃酸の逆流をしずめて、これ以上悪くならないようにしていくこと」が大きな目的になります。
そのために、お薬による治療と生活習慣の見直し、そして定期的な胃カメラでのチェックを組み合わせて進めていきます。
胃酸を抑える薬による治療
バレット食道の多くは、長く続いた逆流性食道炎と関係しています。
そのため、胃酸の分泌をおさえるお薬を使って、食道への刺激を減らすことがとても大切です。お薬によって、胸やけ・呑酸などの症状を楽にすることはもちろん、粘膜へのダメージを減らすことで、将来のリスクを下げていくことも期待できます。
バレット食道そのものを完全に元の粘膜に戻すお薬はありませんが、「悪化させないようにコントロールしていく」というイメージで治療を続けていきます。
再発や悪化を防ぐ生活習慣の整え方
お薬だけでなく、ふだんの生活を少し整えることも、再発や悪化を防ぐうえで大切です。例えば、食事のときは「よく噛んでゆっくり食べる」「寝る2〜3時間前までには食事を終える」ことを意識してみてください。
また、アルコールやたばこは胃酸の逆流を強めたり、粘膜を傷つけたりする原因になります。量を少し減らしたり、休肝日・禁煙の日を作るところから一緒に取り組んでいきましょう。
生活習慣の改善は、「すべて完璧にしないといけない」というものではありません。できそうなことを少しずつ続けていくことが、長い目で見て胃や食道を守ることにつながります。
定期的な胃カメラによる経過観察
バレット食道と診断された場合は、定期的に胃カメラで中の状態を確認していくことが大切です。バレット粘膜の広がりに変化がないか、がんが疑われる部分がないかなどを、内視鏡で丁寧にチェックしていきます。
胃カメラを受ける間隔は、バレット粘膜の長さや範囲、年齢やほかの病気の有無、喫煙・飲酒歴などをふまえて、「このくらいのペースで見ていきましょう」と一人ひとりに合わせて相談しながら決めていきます。
「バレット食道と言われてからそのままになっている」「前に検査をしてからかなり時間があいてしまった」という方も、一度すぎうらクリニックへご相談ください。現在の状態を確認し、お薬・生活習慣・胃カメラの間隔も含めて、これからどう見守っていくか一緒に考えていきます。
